日本楽器製造株式会社製初期グランドピアノ
- 所在地
- 白金台4-6-2
- 所有者
- 港区教育委員会
- 概要
- 1台 歴史資料 令和4年10月13日指定
このグランドピアノは日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)製で、幅145㎝、奥行185㎝、高さ98㎝(屋根を閉じた状態)、85鍵盤、標準的なサイズである。全体を黒漆塗(くろうるしぬり)とし、側板(がわいた)には金平蒔絵で有職模様を、金属フレームには漆焼付で菊唐草模様をあらわす、といった日本の伝統的技法を用い、曲線的な譜面台や脚部など、豊かな装飾性が特徴である。旧氷川小学校が昭和5(1930)年の校舎建て替えの際に、同校の向かいにあった九条家から「皇太后使用のピアノ」として寄贈を受けた。九条家は大正天皇の皇后となった九条節子の実家である。
フレームには「YAMAHA PIANO Co.」とロゴが入り、鍵盤蓋裏には「Yamaha Co.,」と筆記体で記され、響板には「1522」の製造番号が刻まれている。同社がグランドピアノを完成させたのは明治35(1902)年で、以後国内外の博覧会に漆塗蒔絵や梨子地七宝などの装飾をほどこしたグランドピアノを出品し、宮内省や文部省など官公庁への納入を行っている。宮内庁の記録と製造番号により、このピアノは同36年第5回内国勧業博覧会に出品されたのち昭憲皇太后のお買上となり、貞明皇后に贈られたものであることが確認できる。
博覧会や皇室との関わりが考えられる最初期の国産グランドピアノであり、側板やフレームにみられる装飾は現存唯一のものと考えられる。日本におけるピアノ産業史の一幕を今日に伝える貴重な資料であるとともに、旧氷川小学校で長らく使われていたことなど、港区の歴史を知る上でも貴重な文化財といえる。